レンタル宣言に入ったんだから一度くらいは。
と思って行ってみたが
ごめ、俺あの空間肌に合わねェっぽいです。
一つだけあからさまにしょぼいのがあるとか俺自身スルーしたくなる。
あんな神々の饗宴の場にしょぼいものを……マジで申し訳ない。
本人の目に触れる前に削除するべきか、開き直って放置するか、いまだに迷う。
背後の馬鹿がループ悪夢とか自己嫌悪とかバーサクとかかましてた。
何かこう、脆弱な精神が耐え切れず嘘をついて将来《妹》に刺し殺されそうな心境だそうな。
コミュ外の人も勝手に描いてる癖に、変な所で蚤の心臓持ちだ。
だからやっぱここでひっそり借りる事にしようと決めた。
借りた方も、未来の被害者様もスミマセン。
以下、日記
と思って行ってみたが
ごめ、俺あの空間肌に合わねェっぽいです。
一つだけあからさまにしょぼいのがあるとか俺自身スルーしたくなる。
あんな神々の饗宴の場にしょぼいものを……マジで申し訳ない。
本人の目に触れる前に削除するべきか、開き直って放置するか、いまだに迷う。
背後の馬鹿がループ悪夢とか自己嫌悪とかバーサクとかかましてた。
何かこう、脆弱な精神が耐え切れず嘘をついて将来《妹》に刺し殺されそうな心境だそうな。
コミュ外の人も勝手に描いてる癖に、変な所で蚤の心臓持ちだ。
だからやっぱここでひっそり借りる事にしようと決めた。
借りた方も、未来の被害者様もスミマセン。
以下、日記
「お久しぶりッスにーさん」
ニカッと人懐っこいようなガキくさい笑顔で俺の方へ手をひらひら振る少年。
近所に住んでる同い年の女の弟で、名前を虎渡 太子(トラワタリ タイシ)という。
ご近所のよしみで一緒に遊んだ事もあった、ある意味弟のようなものだ。
学校帰りなのか、太子は長袖のカッターシャツを肘上まで捲り上げ、学ランの袖を腰で結んでいる。
この島で探索するにはあまりに軽装だ。
何か問題でも起きたのだろうか。
「紗夜に何かあったンで?」
「うんにゃ。
マメマメしく連絡取っちゃねーけど熱々で幸せっぽいッスよ」
俺の姉・紗夜を前回の探索での同行者、式村の嫁に出してから、一切会っていない。
出来る限りの事は学習させたが、何か問題が起きていないか心配だった。
取り敢えず、幸せそうならば安心して良いだろう。
「じゃあ何でお前がここにいるンで?」
「俺、ここで探索するんスよ」
そう言うと、通学鞄から例の招待状の入った封筒を取り出した。
「高校の授業サボって旅行気分って奴で? 帰れ」
常軌を逸していたとは言え、俺達が通っていた学園は箱庭だ。
だが、この島は勝手が違う。
遺跡に住む者達や、人狩りと呼ばれる連中の脅威。
学園でも対人戦はあったが、死ぬ程の事は無かった。
飢えの苦しみだって、学園では無かった。
だが、ここでは違う。
学園やサバゲの延長やお遊び感覚で来る所ではない。
俺が突き放すように言ったのが気に入らないのか、太子は頬を膨らませる。
「嫌ッス」
腕を組み、駄々をこねる。
気心の知れた相手だからこそ耐性がついているが、強情で我侭なガキは大嫌いだ。
「サバゲとも学園とも違う、死ぬ可能性だってあるトコに旅行気分の軽装で来るような奴は帰れ」
冷ややかにそれだけ言うと、太子は目に炎でも描かれていそうな勢いで喚き出した。
「嫌だ! 俺ぜってー帰らねー!
あんな進学の為に知識頭に詰め込んでばっかの進学校なんざやってらんねーよ!」
「……進学校?」
シャウトする太子に、俺は思わずオウム返しに聞いてしまう。
高校に進学したとは聞いていたが、進学校とは初耳だ。
太子の学力は、体育を除いてほぼ壊滅的だ。
まかり間違って何かの奇跡で進学校に入学したとして、到底通えるレベルではない。
「俺さ、中卒で陸上自衛隊に志願しようと思ってたんスよ。
でも親父もお袋も、せめて高校卒業してからにしてくれって泣くんスよ」
大使の性質を思えば陸自の法が性に合っているだろう。
だが憲法改正だ何だいってるこのご時世、訓練を積んだ後でどこへ送られるやもわからない。
親御さんが心配するのもわかる。
「そんで、さすがにちょっと親がかわいそうになって。
親父達が言う、うちから一番近い高校に願書出して、受験したら受かったッス」
太子は聞いてくれよ、とばかりに俺に語ってくる。
確かに近所で最寄の高校といえば進学校だった。
学力をどん尻から数える方が早いような太子が受かったなんて信じがたい。
運がいいのか悪いのかわからない。
そう思っていると、太子の目がギラリと光った。
憎悪とかそういうレベルの、あまり宜しくない輝きだ。
「でもそこが進学校って親父もお袋も黙っててよ、入ってからわかったッス。
受験は必死だったから何とかつめこんだりできたけどよ、
どー頑張ってもあと3年もそんな事続けんのは無理ッスよ。
俺ぜってー頭おかしくなっちまう」
両親の思惑にあっさり乗ってしまった太子を哀れと言えなくは無い。
だがこいつは学校の情報を自分から把握しなかった。
正直、自業自得だ。
「それに姉キの呪術ヲタっぷりもパワーアップしてきてヤバイんスよ正直。
まだまだ若い身空で夢もあるのにあの女に殺されたくねーッス!」
太子が両手で頭を抱えてうずくまる。
顔を覗き込むと、死んだ目をして震えている。
これは、マジだ。
俺まで眩暈がしてくる。
太子の二学年上の姉、虎渡 弥子(とらわたり やこ)。
彼女は【将来呪術と結婚するの】と豪語する程の呪術ヲタだ。
知識を漁るとかそんなかわいいモノではなく、彼女は再現してその術を我が物にしようとする。
その為、俺や太子は何度も弥子の、やや命に関わるモルモット実験モニターをさせられてきた。
弥子からは少し遠ざけておいた方が良いかもしれない。
本格的な呪術を本気で試そうとする為、洒落にならない。
条件を付けて守れるようなら、こいつをこの島に居させても良いかもしれない。
そう思った時、不意に太子が真顔で、どこか遠くを見つめた。
「それに俺、学園の頃の思い出が曖昧なんスよ。
なんか命程度に大事なモンがあった筈なんスけど、なくしちまって探してるッス。
何だったかも忘れちまったけども、死んでも見つけなきゃいけねーって気がするッス」
ぽつりとこぼす。
それで同情等はしないが、太子がここにいるのは、それなりに理由があるらしいと言う事は把握した。
暫く話し合った後、条件付で俺と共に行動する事になった。
・人様に迷惑をかけない。
・自分の身は自分で守る。
・遺跡の生物との戦闘時には安全な所に退避し、手出しに足引きをしない。
・食材はテメェで調達。 リルサンに手間をかけるので太子分の調理は俺がする。
これが、当面の約束。
必要に応じて改変して行き、守れなければ太子は家に帰って貰う。
その条件を太子に告げると、
「あの家に戻る位なら死守するッス!」
満面の笑みを浮かべて力こぶを作って見せた。
それにしても、こんな予定に無い荷物を背負い込む事になるとは思いも寄らなかった。
正直、厄介な事が山積みになりそうな予感でいっぱいだ。
そもそも俺が話したいのは太子ではなくて白い魂喰らいの……
=====2日目=====
「スルトさんっ・・・!」
遠くからかすかに、聞き覚えのある声が聞こえた。
声のした方を向くと、髪も肌も輝くばかりに真っ白い少女が俺の方に向かって駆けて来ている。
少女の少し後ろを、真っ黒い魚の骨のような異形がふよふよと空中浮遊しながら付いて来る。
俺のすぐ正面で、乱れた息を整えると、少女はにこりと微笑んで、口を開いた。
「スルトさんもこちらに来られてたんですね・・・良かった。」
「おお、スルト殿、久しぶりだね。」
少女の少し後ろで進行を止めた異形が、その場で浮遊しながら気さくに挨拶をくれる。
彼女と会うと無性に脈が上がるのは気のせいだろうか。
「最初、いくら探しても見つからなかったからものですから・・・。」
そう言って白い少女は目を伏せる。
俺は脈拍数が上がり、視界がややぐらぐら揺れる。
何だか気の利いた言葉が思いつかず、俺の頭はオーバーヒートを起こしフリーズする。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、少しだけ口元をニヤりとさせた黒の異形が追い討ちをかける。
「この白いの、島行きの船の中を、ひたすら探しておったよ。」
う・・・。 と、声を詰まらせうろたえる白い少女。
こんなに自分に嬉しい事があると、何か裏があるのか、それとも夢じゃなかろうかと疑ってしまう。
だが、目の前で起きてることは紛れも無く真実だ。
たとい俺の願望や妄想であっても、真実であると信じたい。
黒の異形に茶化されて一瞬ひるんだものの、少女は俺へと言葉を連ねる。
「と、とにかくっ、スルトさんが居て下さって良かったです。
どうかまた、よろしくおねがいします」
願ってもない、是非も無い、嬉しい申し出だった。
こちらこそ宜しく、と思い、何か挨拶をした気がする。
何か頭の中がふわふわしていてあまり記憶に残っていない。
「ククク、ネイリのこと、こちらからもよろしく頼んだよ?」
ひどく印象に残っているのは、意味ありげに笑う黒の異形から、妙なプレッシャーを込めて投げかけられた言葉。
そして、嘘のように真っ白い少女の一挙一動や、笑顔。
俺はひどく緊張してガチガチに固まり、何を話したかすらロクに覚えていない。
横で太子があきれた顔をしていたのが妙に憎らしかった。
=====2日目、遺跡内=====
以前島から帰還する前に連絡先を戴いていたキルサンへアクセスし、取り込み中で無いことを確認して伝達要綱を送信する。
といっても携帯何かを持っている訳ではなく、テレパシー機能みたいなものだ。
電波、ネオタイプ、脳内携帯……
呼び名や感じ方は人それぞれだろうが、俺は便利だと思う。
漫画やアニメの世界では某殻機動隊なんかでよく使っている。
それに、今の科学力はわからないが、いつかはできるようになる事だと思う。
それに、キルサンは前回の探索の同行者で、そこそこ信じて良い相手だ。
故にキルサンとの通信に限っては、脳アクセス通信に不快感は持たない。
通信で俺の島到着を告げ、合流可能かを尋ねる。
戦闘要員に空きがあり、同行させてもらう事にした。
合流地点はB-18地点にある桜、ソメイヨシノの木周辺。
魔方陣から合流地点にたどり着くと、大分グラフィックの損傷が激しいキルサンがいた。
近くには同行者らしき緑色の髪をした有翼の少年がいるが、彼もまた疲れていそうだ。
お付の物がこまごまと働いたり手当てをしている。
身体をCGグラフィックで構成されている、緑目金髪の5歳ほどの少年は、キルサン。
以前の探索で色々と世話になった、恩人とも言える何とか言うご大層なプログラムだ。
緑が見の少年の方は、以前の島でキルサンごしに知り合った。
有翼で希少な種族のリルサンだ。
転生の魅力なのかトラブル誘引体質なのか、彼の周りには個性豊かな同行者やお付が大勢居る。
二人とも大分疲れてはいるようだが、取り敢えずは無事だったので安心した。
面倒ごとを先に終わらせるべきだと思ったので、明日以降の行動指針について軽く話し合い野営の準備を済ませる。
しかし、このメンバーで俺や太子はうまくやっていけるのか。
それが多少不安だ。
と、思ったら絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
野生の歩行植物、通称モッサーが興奮状態になり、人を襲っているらしい。
取り敢えずその場の様子を見に行くか、という事にした。
ニカッと人懐っこいようなガキくさい笑顔で俺の方へ手をひらひら振る少年。
近所に住んでる同い年の女の弟で、名前を虎渡 太子(トラワタリ タイシ)という。
ご近所のよしみで一緒に遊んだ事もあった、ある意味弟のようなものだ。
学校帰りなのか、太子は長袖のカッターシャツを肘上まで捲り上げ、学ランの袖を腰で結んでいる。
この島で探索するにはあまりに軽装だ。
何か問題でも起きたのだろうか。
「紗夜に何かあったンで?」
「うんにゃ。
マメマメしく連絡取っちゃねーけど熱々で幸せっぽいッスよ」
俺の姉・紗夜を前回の探索での同行者、式村の嫁に出してから、一切会っていない。
出来る限りの事は学習させたが、何か問題が起きていないか心配だった。
取り敢えず、幸せそうならば安心して良いだろう。
「じゃあ何でお前がここにいるンで?」
「俺、ここで探索するんスよ」
そう言うと、通学鞄から例の招待状の入った封筒を取り出した。
「高校の授業サボって旅行気分って奴で? 帰れ」
常軌を逸していたとは言え、俺達が通っていた学園は箱庭だ。
だが、この島は勝手が違う。
遺跡に住む者達や、人狩りと呼ばれる連中の脅威。
学園でも対人戦はあったが、死ぬ程の事は無かった。
飢えの苦しみだって、学園では無かった。
だが、ここでは違う。
学園やサバゲの延長やお遊び感覚で来る所ではない。
俺が突き放すように言ったのが気に入らないのか、太子は頬を膨らませる。
「嫌ッス」
腕を組み、駄々をこねる。
気心の知れた相手だからこそ耐性がついているが、強情で我侭なガキは大嫌いだ。
「サバゲとも学園とも違う、死ぬ可能性だってあるトコに旅行気分の軽装で来るような奴は帰れ」
冷ややかにそれだけ言うと、太子は目に炎でも描かれていそうな勢いで喚き出した。
「嫌だ! 俺ぜってー帰らねー!
あんな進学の為に知識頭に詰め込んでばっかの進学校なんざやってらんねーよ!」
「……進学校?」
シャウトする太子に、俺は思わずオウム返しに聞いてしまう。
高校に進学したとは聞いていたが、進学校とは初耳だ。
太子の学力は、体育を除いてほぼ壊滅的だ。
まかり間違って何かの奇跡で進学校に入学したとして、到底通えるレベルではない。
「俺さ、中卒で陸上自衛隊に志願しようと思ってたんスよ。
でも親父もお袋も、せめて高校卒業してからにしてくれって泣くんスよ」
大使の性質を思えば陸自の法が性に合っているだろう。
だが憲法改正だ何だいってるこのご時世、訓練を積んだ後でどこへ送られるやもわからない。
親御さんが心配するのもわかる。
「そんで、さすがにちょっと親がかわいそうになって。
親父達が言う、うちから一番近い高校に願書出して、受験したら受かったッス」
太子は聞いてくれよ、とばかりに俺に語ってくる。
確かに近所で最寄の高校といえば進学校だった。
学力をどん尻から数える方が早いような太子が受かったなんて信じがたい。
運がいいのか悪いのかわからない。
そう思っていると、太子の目がギラリと光った。
憎悪とかそういうレベルの、あまり宜しくない輝きだ。
「でもそこが進学校って親父もお袋も黙っててよ、入ってからわかったッス。
受験は必死だったから何とかつめこんだりできたけどよ、
どー頑張ってもあと3年もそんな事続けんのは無理ッスよ。
俺ぜってー頭おかしくなっちまう」
両親の思惑にあっさり乗ってしまった太子を哀れと言えなくは無い。
だがこいつは学校の情報を自分から把握しなかった。
正直、自業自得だ。
「それに姉キの呪術ヲタっぷりもパワーアップしてきてヤバイんスよ正直。
まだまだ若い身空で夢もあるのにあの女に殺されたくねーッス!」
太子が両手で頭を抱えてうずくまる。
顔を覗き込むと、死んだ目をして震えている。
これは、マジだ。
俺まで眩暈がしてくる。
太子の二学年上の姉、虎渡 弥子(とらわたり やこ)。
彼女は【将来呪術と結婚するの】と豪語する程の呪術ヲタだ。
知識を漁るとかそんなかわいいモノではなく、彼女は再現してその術を我が物にしようとする。
その為、俺や太子は何度も弥子の、やや命に関わる
弥子からは少し遠ざけておいた方が良いかもしれない。
本格的な呪術を本気で試そうとする為、洒落にならない。
条件を付けて守れるようなら、こいつをこの島に居させても良いかもしれない。
そう思った時、不意に太子が真顔で、どこか遠くを見つめた。
「それに俺、学園の頃の思い出が曖昧なんスよ。
なんか命程度に大事なモンがあった筈なんスけど、なくしちまって探してるッス。
何だったかも忘れちまったけども、死んでも見つけなきゃいけねーって気がするッス」
ぽつりとこぼす。
それで同情等はしないが、太子がここにいるのは、それなりに理由があるらしいと言う事は把握した。
暫く話し合った後、条件付で俺と共に行動する事になった。
・人様に迷惑をかけない。
・自分の身は自分で守る。
・遺跡の生物との戦闘時には安全な所に退避し、手出しに足引きをしない。
・食材はテメェで調達。 リルサンに手間をかけるので太子分の調理は俺がする。
これが、当面の約束。
必要に応じて改変して行き、守れなければ太子は家に帰って貰う。
その条件を太子に告げると、
「あの家に戻る位なら死守するッス!」
満面の笑みを浮かべて力こぶを作って見せた。
それにしても、こんな予定に無い荷物を背負い込む事になるとは思いも寄らなかった。
正直、厄介な事が山積みになりそうな予感でいっぱいだ。
そもそも俺が話したいのは太子ではなくて白い魂喰らいの……
=====2日目=====
「スルトさんっ・・・!」
遠くからかすかに、聞き覚えのある声が聞こえた。
声のした方を向くと、髪も肌も輝くばかりに真っ白い少女が俺の方に向かって駆けて来ている。
少女の少し後ろを、真っ黒い魚の骨のような異形がふよふよと空中浮遊しながら付いて来る。
俺のすぐ正面で、乱れた息を整えると、少女はにこりと微笑んで、口を開いた。
「スルトさんもこちらに来られてたんですね・・・良かった。」
「おお、スルト殿、久しぶりだね。」
少女の少し後ろで進行を止めた異形が、その場で浮遊しながら気さくに挨拶をくれる。
彼女と会うと無性に脈が上がるのは気のせいだろうか。
「最初、いくら探しても見つからなかったからものですから・・・。」
そう言って白い少女は目を伏せる。
俺は脈拍数が上がり、視界がややぐらぐら揺れる。
何だか気の利いた言葉が思いつかず、俺の頭はオーバーヒートを起こしフリーズする。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、少しだけ口元をニヤりとさせた黒の異形が追い討ちをかける。
「この白いの、島行きの船の中を、ひたすら探しておったよ。」
う・・・。 と、声を詰まらせうろたえる白い少女。
こんなに自分に嬉しい事があると、何か裏があるのか、それとも夢じゃなかろうかと疑ってしまう。
だが、目の前で起きてることは紛れも無く真実だ。
たとい俺の願望や妄想であっても、真実であると信じたい。
黒の異形に茶化されて一瞬ひるんだものの、少女は俺へと言葉を連ねる。
「と、とにかくっ、スルトさんが居て下さって良かったです。
どうかまた、よろしくおねがいします」
願ってもない、是非も無い、嬉しい申し出だった。
こちらこそ宜しく、と思い、何か挨拶をした気がする。
何か頭の中がふわふわしていてあまり記憶に残っていない。
「ククク、ネイリのこと、こちらからもよろしく頼んだよ?」
ひどく印象に残っているのは、意味ありげに笑う黒の異形から、妙なプレッシャーを込めて投げかけられた言葉。
そして、嘘のように真っ白い少女の一挙一動や、笑顔。
俺はひどく緊張してガチガチに固まり、何を話したかすらロクに覚えていない。
横で太子があきれた顔をしていたのが妙に憎らしかった。
=====2日目、遺跡内=====
以前島から帰還する前に連絡先を戴いていたキルサンへアクセスし、取り込み中で無いことを確認して伝達要綱を送信する。
といっても携帯何かを持っている訳ではなく、テレパシー機能みたいなものだ。
電波、ネオタイプ、脳内携帯……
呼び名や感じ方は人それぞれだろうが、俺は便利だと思う。
漫画やアニメの世界では某殻機動隊なんかでよく使っている。
それに、今の科学力はわからないが、いつかはできるようになる事だと思う。
それに、キルサンは前回の探索の同行者で、そこそこ信じて良い相手だ。
故にキルサンとの通信に限っては、脳アクセス通信に不快感は持たない。
通信で俺の島到着を告げ、合流可能かを尋ねる。
戦闘要員に空きがあり、同行させてもらう事にした。
合流地点はB-18地点にある桜、ソメイヨシノの木周辺。
魔方陣から合流地点にたどり着くと、大分グラフィックの損傷が激しいキルサンがいた。
近くには同行者らしき緑色の髪をした有翼の少年がいるが、彼もまた疲れていそうだ。
お付の物がこまごまと働いたり手当てをしている。
身体をCGグラフィックで構成されている、緑目金髪の5歳ほどの少年は、キルサン。
以前の探索で色々と世話になった、恩人とも言える何とか言うご大層なプログラムだ。
緑が見の少年の方は、以前の島でキルサンごしに知り合った。
有翼で希少な種族のリルサンだ。
転生の魅力なのかトラブル誘引体質なのか、彼の周りには個性豊かな同行者やお付が大勢居る。
二人とも大分疲れてはいるようだが、取り敢えずは無事だったので安心した。
面倒ごとを先に終わらせるべきだと思ったので、明日以降の行動指針について軽く話し合い野営の準備を済ませる。
しかし、このメンバーで俺や太子はうまくやっていけるのか。
それが多少不安だ。
と、思ったら絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
野生の歩行植物、通称モッサーが興奮状態になり、人を襲っているらしい。
取り敢えずその場の様子を見に行くか、という事にした。
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